FC2ブログ
2020 07 ≪  08月 12345678910111213141516171819202122232425262728293031  ≫ 2020 09
第6章 コウジ  ―休日出勤2日目(2)―
2020/08/03(Mon)
 仕上がった仕様書を緊張した面持ちで橋本に手渡す。

 時間は2時を少し過ぎてた。

「休みだったのにごくろうさんだったなあ。 俺は明日からの準備があるから先に帰るな」

 渡した資料をパラパラとめくりながら橋本はあっさりと言った。

「はい、、、」

 その時橋本の携帯が鳴り、すぐに電話を取った。

 橋本の意外な言葉に竜之介は驚き、ホッとしたが、不気味な感じもする。

 とにかく橋本の気が変わる前に帰ろうと急いでスーツを身に着けた。

 挨拶をして開発室を出ようとすると、電話をしていた橋本が手で制し、待てと合図を送ってきた。

 電話を終えると、橋本が会社のロゴの入った封筒を持って近づいてくる。

「今からこの資料を取りに業者が来るから渡してくれるか?!」

「そんなっ! この格好じゃ会えません!」

「いや、大丈夫だ。 山科のおっさんだから」

「えっ?!」

「支払い関係の書類だ。 急いでるらしくて取りに来やがった」

――チーフの狙いはこれだったんだ、、、

「ど、どうして、、、 こんな酷いことばかりを、、、」

「はあ? 酷い!? どういう意味だ? 今日投函するつもりだったんだが、資金繰りに困って焦ってるおっさんが勝手に取りに来たんだ。 ちょうどお前が居るならこの前のシステムの確認が出来るしちょうどいいだろ?!」

「こ、この前のシステムは急がれてるというので、もうとっくに検収を上げてますから、山科社長と何も話すことはありません!」

「まあ、そう言うな。 おっさん、お前に会えると分かるとすっげー喜んでたぜ」

「会うのはあの時が最初で最後だと言ってたじゃないですか?!」

「そんなに嫌か? ん?! まさかお前、この前山科システムに行った時、あのおっさんと何かあったのか?」

「い、いえ、、、 何も、、、」

―――知ってるくせに、、、

「ふ~ん。 まあ、何があったのかは知らないが、お前が担当してる下請け会社に必要な資料を渡すだけじゃないか。 だろ?!」

 橋本はニヤついて言った。

「おっさんは俺が商談室まで案内しといてやるから、後はよろしく。 まあ、下請けさんと仲良くしとくってのは会社にとっていい事だからな。 話が済んだらそこから先は自由だ」

「あぅぅ、、、 はい、、、 お渡しするだけでいいんですよね、、、」

――あの日の事、知らない訳はない、、、 富岡刑事に繋がってるくせに、、、

「飯を食いに行くなり、デートするなり、好きにしな。 頼んだぜ、速水みちるさん」

 そう言い捨てて、橋本は開発室を出て行った。


      ◆


 商談室から明かりが漏れている。

 既に山科社長は来ているようだ。

―――この資料を渡すだけでいいんだよね、、、

 先週のアムールでの事を山科が竜之介だと気付いてない事を、知らないことを祈る思いで竜之介は商談室に足を踏み入れた。

「どうも、、、 山科社長、ご無沙汰しています、、、」

「おお~~っ。 これは、これは! 速水さんにお会いできて嬉しいなあ! 貴女も休日出勤だったんですか? 頑張りますねえ」

 山科は立ち上がり、竜之介の手を取り握手を交わす。

 しつこく手を握り続けるグローブのような山科の手にアムールでの出来事が嫌でも脳裏に蘇ってくる。

―――ボクはこの男に口を犯され、精液を飲まされた、、、

 射精された瞬間、妖しい快感に飲み込まれてしまった記憶が、心を騒めかせる。

 しかし山科の媚びるような態度は、アムールで口淫した相手が竜之介だとは感づいていないようでホッとした。

「ええ、、、 あの、これを橋本から預かってまいりました、、、 では私はちょっと急ぎますので」

「ありがとうございます。 でもまあそう言わないで、ま、まっ、座ってくださいよ、速水さん。 とりあえずそこのスタバでコーヒーを買ってきてますから。 どうぞ飲んでください。 ねっ!? も少しお時間いいでしょ?!」

「ありがとうございます。 それじゃあ少しだけ」

 竜之介は封筒を手渡してすぐに帰ろうと思っていたのだが、仕方なく山科の向かい側に腰を下ろした。

「お休みだからですか、この前お会いした時と感じが違いますねえ、速水さん。 お化粧が少し濃い目なんですかね。 あっ! この後デートかな?!」

「まっ、まあ、そんなところです、、、」

「お相手が羨ましいなあ~」

 山科は、次の仕事が欲しいのか、今回の案件でいかに工夫を凝らして良いシステムに仕上げたか自慢話を話だし、そして自社の手掛けたシステム事例のファイルを開いて、滔々と説明を始めた。

 受け取ったコーヒーに口を付けた途端、携帯に着信があった。

 橋本からだった。

「すいません、山科社長。 ちょっと失礼します」

 席を立ち、ブースを外れて電話に出た。

「もしもし、、、」

『おう。 山科のおっさんに渡してくれたか?』

「はい。 資料はお渡ししました」

『そっか。 ありがと。 今日はご苦労さんだったな、竜。 後は好きなように休日を楽しんでくれ』

「はい、、、 直ぐに帰りますから」

「まあ、ご随意に」

 電話が切れ、竜之介はため息をついた。

 席に戻り、30分ほど山科の自慢話に付き合いようやく解放されて、エレベーターに乗る山科を見送った。

          ◆

 竜之介は顔を真っ赤にして通用口を駆け抜け、表に飛び出した。

 守衛室でGUESTカードを返した時に守衛に言われた言葉に、竜之介の心臓はまだドキドキしていた。

『お嬢さん。 ビルの中だからまだしも、お楽しみはほどほどにしておかないと捕まってしまうよ。 このビルの中にだって監視カメラはたくさん設置されているんですからね』

 竜之介はこの警察官上がりのこの老ガードマンとウマがあい、時々守衛室でお茶をご馳走になって世間話をすることがあった。
    
 外からは見えないが中に入ると壁面にたくさんのモニターが掛かっていて、各フロアの監視カメラの映像が映っていたのを思い出した。

『ほら、見てごらん』



 

守衛室の小窓から覗き込んだモニターに再生された映像は、下着姿でコーラを買いに行かされた時のものだった。

『この映像は、機械が故障したことにして消しておいてあげるよ。 橋本君には僕からいい加減にするよう言っておいてあげるから』

――モニターで見られていたんだ、、、

 自分の恥ずかしい姿が映り、それを守衛室で見られていたのかと思うと叫び出したいほどに羞恥心が込み上げてくる。

 竜之介は、逃げる様に足早に駅に向かって歩いた。


関連記事
この記事のURL | ボクの中のワタシ | CM(2) | TB(0) | ▲ top
| メイン | 第6章 コウジ  ―休日出勤2日目―>>
コメント
-  -
yu☆riさん、コメントありがとう^^
この物語は「真梨子」のスピンアウトですとだけ言っておきま~~すっ。
もうすぐ名乗りますから~(笑)
2010/09/30 23:53  | URL | 羽佐間 修 #aweimhBo[ 編集] ▲ top
-  -
久しぶりのカキコでーす
もしかしてスタバにいたあの人は真梨子の旦那さまじゃないですか??
前作のスピンアウトと紹介にあったのでそう思ったんだけどもそうならこれから真梨子とかも出てくるんですか
凄い楽しみーー
2010/09/30 21:23  | URL | yu☆ri #mWp/3j2s[ 編集] ▲ top
コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する


▲ top

トラックバック
トラックバックURL
→http://hazamashamenovel.blog59.fc2.com/tb.php/430-169fb247

| メイン |