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第4章 翻弄  ―モデル撮影― 2
2020/07/11(Sat)
 何回か衣装をチェンジし、他の女性モデルと絡んだりしながらの撮影は2時間ほどで終わった。

 カメラマンに求められるまま様々なポーズで眩いストロボの光とシャッター音に包まれて写真を撮られるのは竜之介にとって夢のように楽しい時間だった。

 最初は男性に、”みちる”と呼ばれるのは初めてだったので、それだけでドキドキして凄く緊張していたのだが、誉め言葉の洪水を浴びて次第に高揚し、緊張が解けてきた。

『みちるちゃん、可愛い~~っ!』

『あ~~っ、良い表情だっ! みちるちゃん』

『いいね~、みちるちゃん! かわうぃ~ねぇ~』

 自分が努力して作り上げた”女の子、みちる”にプロのカメラマンに仕事の上でのリップサービスと分かっていても一挙手一投足に投げ掛けられる褒め言葉は掛値なしに気持ちよかった。

 面接の時に感じた長谷川への不安も、前日の警察の出来事も、そして橋本にバレテしまった事もすべて忘れ去り、”オンナの子の時間”を満喫した。

 とりわけ撮り終えた後になっても、自分でも信じられないのが下着での撮影に挑んだことだ。

 ルームウェアのカットをカメラマンに望まれたのだが、用意されていた衣装は、白いコットン生地のセパレートビキニのような下着同然の代物だった。

 見た瞬間少し怯んだが、気分が高揚していたのと、橋本が居なくなっていたので思いきれた。

 3度目の衣装チェンジの時、更衣室に戻ったらそれまではニタニタ笑いながら、着替えを眺めていた橋本の姿が消えていた。

 長谷川が、『君の女装をからかうのに飽きたから帰るって。 車は君の家のマンションに戻しておくと言ってたよ』と教えてくれた。

 求めるられるまま、ウィッグを外し地毛にヘアバンドを巻いてベッドの上でポーズをとり、フラッシュの嵐を浴びる。

『みちるちゃん。 起きたばかりの君を見せて~!』

『みちるちゃんはまだ眠いよ~~。 そうそう! 寝ぼけ顔も可愛いぃぃっ!』

『イチャイチャしたいのにいつまでもゲームを止めない彼氏に拗ねてみて~』

 様々な状況を想定して表情を作るのは、とても楽しい。

 その都度、『可愛いぃぃ~っ!』とか『僕ならゲームなんか直ぐに投げ出しちゃうよ~』とか誉め言葉のシャワーが、本当に女の子になった気分にさせてくれた。

 ”パシャ、パシャ、パシャ”と響くシャッター音に、魔法をかけられたように肢体をファインダーにさらけ出した。

――これで人に見せるための女装は卒業しよう。 プロの女性ファッション誌のスタッフにまったくの女性として認められたんだからボクの目標”ボクがどこまで女性に近づけるか”は達成だよね、、、

 更衣室で帰り支度をしながら竜之介はそう決めた。

――これ以上は望むべくもない。 それに橋本チーフに知られてしまったんだからちょうどいい潮時さ。 でも暫くは会社でいびられちゃうかもなあ、、、

 明日から会社で橋本と過ごす時間を考えると気が滅入るが、元々竜之介をとても可愛がってくれていた先輩だ。

 まさか富岡刑事のような悪戯を女好きの橋本が仕掛けてくるとは思えない。

 理恵と過ごす時間以外は女装をやめて、元の生活に戻せば、時が経てば元の関係に戻れるだろうと思った。

――チーフには今日で女装を卒業するといってあるし、それにこの事でからかうのにもう飽きたらしいし。 ふふっ

 その時、ドアがノックされ長谷川が更衣室に入ってきた。

「みちるさん、着替え済んだかな~?!」

「はい」

 この後、竜之介は長谷川と食事に行くことになっていた。

「おっ?! やっぱりそれを選んだんだね。 一番似合ってたよ」

 竜之介は今日身に付けたドレスの中から水玉模様のシフォンドレスを選んで身に着けている。

「ホントに頂いていいんですか?」

  好きな物を1着プレゼントするからそれ着たみちるをエスコートしますと言われていた。

「もちろんさ。 ギャラの代わりだし、僕も素敵なレディを連れて行って自慢したいからね。 さあ、行こうか」

「はい」

 竜之介は軽やかに立ち上がり、歩き出した長谷川の後を追った。



          ◆

「ご馳走様でした~。 美味しかった~」

  洒落たイタリアンレストランで長谷川と食事を楽しんだ。

 長谷川たちやお店のスタッフに女性として自然に扱ってくれる空間は竜之介にはとても心地よいものだった。

「そうだ、みちるさん。 来月号のモデルもお願いできるかな?」

「えっ?!」

 予想もしなかった申し出に竜之介は目を丸くした。  女性モデルとして認められたと思うと飛び上りたいほどに嬉しい。

 もう止めると決めたつもりでも、心の底では許されるのならもうしばらく女の子を楽しんでいたいと望んでいる。

「あのぉ、、、 せっかくのお話ですけど、今回の撮影を想い出に女装は止めるつもりなんです、、、」

 断腸の想いで竜之介は断りの言葉を口にした。

「えっ、ホントに!? もったいない! 絶対人気者になれるよ」

「そう言ってくださるのはとても嬉しいんですけど、、、」

「本当に止めちゃうの?」

「ええ、、、 もうやりきったかなあって思うんです」

「そうなの!? 残念だなあ、、、」

「ごめんなさい、、、」

「う~ん、、、残念だけど仕方がないね。 その代わりもう一軒、付き合ってくれるかな?! 旨いカクテルを飲ませる店があるんだ。 それくらいはいいだろう?!」

「あっ、、、 はい、、、」

――どうしようかなあ、、、

「レディとして過ごす最後の夜になるんだろ!?」

――あーっ! そうだった、、、 そう、、、 今夜でみちるは居なくなるだ、、、

「ですね~っ!! 是非連れていってください」

「そうこなくっちゃ。 では、みちるさん。 参りましょうか」

 長谷川は竜之介の後ろに回り、椅子をそっと引いた。

――うふっ 楽しい~

 長谷川のわざとらしいエスコートも、竜之介は嬉しくて仕方がなかった。

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