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第2章 新しいボク  ―恵理― 1/2
2009/12/15(Tue)
――まだかなあ、、、

 竜之介は、指定されたカフェ・ガレットのオープンテラスの席にいた。

 堀口エリとの約束の5時を10分程過ぎている。

「うぅ、、、寒っ、、、」
 一瞬、少し強い風が吹き抜け、竜之介は思わず首をすくめ、タートルネックに首をうずめた。

 晩秋にしては日中は異様に暖かい日だったのだが、夕方近くになるとさすがに冷え込んできた。

 暖かい店内にも空席はあった。

 しかしエリと会話を交わす時、四方の隣り合った客に声を聞かれてしまうことを考えると恐ろしくて、空席だらけのオープンテラスを選んだ。

 『お会いする時に迷わないようにブログの中の女の子で来てくださいね』というエリのリクエストに従い、濃いめのメイクを施し、身体の線が出にくいざっくりとしたニットのワンピースを身につけていた。

――あっ、、、 こっち見てる?!

 カフェに入ってきたヒップホップ系のファッションを身をつけた軽薄な感じのする若い男がじっと竜之介を見ていた。

――ば、ばれたのかなあ、、、

 その男は、笑みを浮かべ竜之介の方へ近づいてくる。

――ボクの方へ来る、、、 どうしよう、、、

 竜之介はうつむき、ドキドキして男の足音を恐れた。

「たっちさん?」
 その時、竜之介の後ろからブログ上のニックネームを呼ぶ涼やかな声が聞こえた。

「は、はい、、、」
 振り返るとボブカットの上品な若い女性が立っている。

――エリ?! 

「はじめまして。 堀口 恵理です」

――綺麗な人だ、、、

「こんにちは、、、 速水、あっ、、、 たっちです、、、」

 竜之介は声を潜めて挨拶を交わした。

「遅くなってごめんなさい」

 恵理は竜之介の向かいの席に座った。

「今の人、たっちさんをナンパしようとしてたみたいですね」

 恵理の視線の先には、店の中にスゴスゴと入っていく男の後姿が見えた。

「たっちさん。 お会いできてとても嬉しいです」

「ど、どうも、、、」
 
 女装して人と話すのは初めてで、竜之介はドギマギしてしまう。

「ホント、たっちさん、綺麗! どこからどう見ても女の子にしか見えないわ」

「・・・・・・」

「はい、コレ。 お返しします。 勝手に中身を見ちゃってごめんなさい」

 恵理がテーブルにメモリスティックを置いた。

「あっ、はい、、、」

「データのコピーはしてませんから安心してください」

「あっ、、、 そう、、、」

「あれからあなたのブログ、毎日見てます。 ほんとに可愛いわ、たっちさん。 うふふっ」

「、、、あっ、ありがとう、、、」

「ブログに書いてある通りだと、女の子になってお出掛けは今日で2度目なんですよね?!」

「、、、うん」

「うふふっ。 ドキドキしてますか?」

「う、うん。 少し、、、」

「ねえ、ねえ、聞いていいかしら?!」

「えっ、、、 何を、、、」

「うふっ。 なんだか恥ずかしいなあ、、、 あのー、、、 今日もあなたの股間は、、、、 写真のようになってるんですか?」

「えっ、、、」

 いきなり恥ずかしい核心に触れられ竜之介はドギマギしてしまった。
――そうなんだよなあ、、、 この人はあの写真を見てるんだ、、、

「あれって、タックって言うんですよね?!」

「あっ、、、  うっ、うん、、、」
 恥ずかしがりながらも悪戯っぽく無邪気な微笑みを浮かべる恵理に引き込まれ、竜之介はうなずいてしまった。

「最初は他の写真と同じ人だってわからなかったわ。 どうなってるんだろってすっごく不思議だったんです」

「あぁっ、、、 で、でもボクは女の子の恰好をしたいだけで、女になりたいわけじゃないんだ、、、」

 理恵に対して言い訳口調になっている自分が何とももどかしい。

「ええ、わかってます。 うふふっ」

「そうだ! ここは寒いし、お近づきの印にお食事に行きましょっか?! 勝手にデータをみちゃったお詫びに私にご馳走させてください」

「えっ?! いやっ、いいよ、、、」

 竜之介は、データを取り返したからには一刻も早くこの場を去りたかった。

「そんなこと言わずに~。 ねっ。 いいでしょ?! 付き合ってください」

「うーーん、、、 う、うん、、、」
 秘密を知られている弱みなのだろうか、イヤとは言えずつい承知してしまった。

「わぁ、嬉しい! 何がいいですか?」

「いやあ、、、 別に何でも、、、」

「じゃあ、私に任せてくださいね。 あっ、でもまだ時間的には夕食には早いですよね。 そうだわ。 一緒にお買い物に行きましょう。 今日はホントはお買い物に行く予定だったんでしょ?!」

「えっ、、、」

「たっちさん、下着が欲しかったんでしょ?! 私が一緒に選んであげる。 ねっ、いいでしょ?!」

 恵理が耳元で声をひそめて囁いた。

「うん、、、」
 竜之介はすっかり恵理のペースに引き込まれ、頷いてしまう。

「さっ、行きましょ」
 
 レシートを手に取り、さっさと席を立ってレジに向かう恵理の後を竜之介は追った。


         ◆

     

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