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第2章 新しいボク  ―コメント―
2009/12/12(Sat)
 初めての女装外出から1週間が経った。

 金曜の夜、日付が変わる頃に竜之介はマンションに戻り、バスタブの湯の栓をひねった。 

 待ち遠しくて仕方がなかった明日の買い物に備え、丁寧に身体の手入れをするつもりだ。

 こんどこそ自信を持って女の子として一人で買い物に出かけられる! その愉しみを休日出勤なんかでつぶされたくない一心で、竜之介はこの一週間、毎日遅くまで残業して、押し気味になっている開発案件に取り組み、完全Offの週末を確保した。

 お湯を張っている間にブログのコメントのチェックをしようと、パソコンを立ち上げた。

 寄せられているたくさんのコメントに、いつものように一人ずつに丁寧な返信コメントを書いていく。

 Hit数が飛躍的に伸びているのは、写真の出来栄えもさることながら、この返信コメントにもその因があると思っているので、竜之介は遅れながらでも必ず書くようにしていた。

《ピーッ、ピーッ、ピーッ》

 バスタブの満水アラームが鳴った。

 竜之介はウキウキした気分で慌ててバスルームに向かう。

 リムーバーを塗り、一週間ぶりに股間のタックを解く。 あらわになった陰のうの皮膚に伸びかけた陰毛がプツプツと浮いていた。

 ゆったりとお湯に浸かり、ボディシャンプーで身体をくまなく洗ってから全身のムダ毛を丁寧に処理をした。

 風呂上がりの火照った身体にローションをたっぷりと擦り込み、しっとりとした肌触りに竜之介は満足を覚える。

 可愛いパジャマに着換え、再びパソコンの前に座った。

 残りの返信コメントを書いてから、先週のネットカフェでの記事を書くつもりだ。

 先週の日曜日にカフェから戻って直ぐに公開したくて仕方がなかったのだが、週に一度の記事更新をブログの決めごとにしていたし、金曜日にも更新していたので今週のネタするつもりで書かないままにしていた。

 つい取り込んでいたカフェでの写真を開いて見てしまうと、一週間前のドキドキが蘇り、いまだにワクワクしてしまう。

――ダメダメ! 先にちゃんと返信書いちゃわなくっちゃ

 竜之介は誘惑に負けず、次々と寄せられたコメントに返信を付けていく。

「ん?!」

 時々寄せられる非公開設定で書かれたコメントの中にずいぶん長文のものがあった。

「ホリグチ、、、 初めての人だ、、、」
 
 読み始めると竜之介の顔からみるみる血の気が引いていく。

「うそだろ?!」
           

<コメント 始め>
たっち様

はじめまして。
堀口と申します。
先日、私が利用したネットカフェ・プレシオ元町店のブースで差したままになっているメモリスティックを見つけました。
その中にこのサイトに掲載されている画像と同じファイルが多数記録されていましたので、貴方の物ではと思いましたので書き込みします。
気づいた時にお店の方に渡せばよかったのですけれど、ついつい中を開いてしまいました。
ゴメンナサイ。
管理人様の持ち物ならお返ししたいと思います。

1.ご住所をお知らせいただいて郵送
2.プレシオに忘れ物として届ける
3.お会いして手渡しする

お返しの仕方をご連絡ください。
今さらお店の方にお渡しするのもどうなのかな?!と思ったりしますし、あなた様のモノかどうかを確かめてお返しするべきなのかとも思います。
たぶんあのお店をご利用なら私のお近くに住んでいらっしゃる方なのかなと思いますので手渡しするほうがよいのかなと考えています。
それとも、データを消去してしまう方が良いのならそのようにします。

どうすれば良いのかご連絡ください
メアド eri_horiguchi@docomobank.ne.jp
※あなた様の忘れものでないのでしたらこの書き込みのことは忘れてください。
<コメント 終わり>


 竜之介は、先週女装外出した時に持っていたトートバッグを慌てて取り出し、中身を確認した。

「ないっ、、、」
 メモリスティックは見当たらなかった。

――どうしよう、、、

 ネットカフェでブログの記事を書き、保存したままパソコンから抜き忘れたようだ。 

 慌ててお店に電話してみたが、忘れ物としては届けられていないという返事だ。

 竜之介は頭が真っ白になった。

――どこまで見たんだろう、、、 ゴメンナサイって謝るってことは全部見てしまったのかなあ、、、

 メモリには、ブログ用の素材やログを一式いれてあった。

 先々週に行った初めての上海出張の時に、ホテルでブログ更新するために作ったものだ。

 トリミングやぼかしを入れる前の生写真が無数に入っている。

 化粧をせずに撮った際どい下着の写真もある。 

 なによりヤバイのは、初めてタックをした時、そのシルエットが嬉しくて、全裸の姿を収めたものも入れていた。

 素顔でウィッグも被っていないカットは、竜之介を知る人なら一目でわかるはずの写真だ。

 それに出張の時の上海の現地子会社とのミーティングの風景や、観光した時のスナップがいくつか入っていて、会社のネームが入ったカットもあったはずで、拾った人が会社に届けたりしたらと思うと、すーっと血の気が引いた。 

――堀口って誰なんだ、、、 男か? あっ、女だ! エリ、、、

 メールアドレス通りならメモリを拾ったのは堀口エリという女性だ。

――堀口エリ、、、 堀口エリ、、、

 仕事関係や身近にホリグチという名前の人間がいないか、頭を巡らせるが、思い当たる人物はいない。

 竜之介が何より恐れるのは、女装趣味を周囲の人間に知られることだ。

――どうやって返してもらおうかな、、、 それとも僕のメモリじゃないってとぼけようか、、、 

 しかし、取り返さないことにはいつあの写真が世間に知られてしまうのか、ずっとビクビクして過ごさなければいけないことになる。

 初めてタックをした時の裸の写真を思い浮かべると、どうしても取り返さないわけにはいかないが、その方法が思いつかない。

 住所を知らせると、速水竜之介と女装子・たっちが同一人物であることを知られることになる。

 店に渡してもらったら、店のスタッフが中身を見るに違いないし、受け取る時には身分証明証を見せろと言うはずで、これもまた竜之介と繋がってしまう。

 会って返してもらうにしても、堀口の素性がわからないから会うこと自体が怖い。

――名前を名乗らないで取り返すには会って受け取るしかないか、、、

 竜之介は思案の末、会ってメモリを返してほしいと堀口エリにメールを送った。

「ふぅ~、、、」

 堀口エリがどんな人なのか、竜之介の頭をマイナス思考が駆け巡る。

 顔見知りだったらどうしよう?! 本当は男じゃないのか?! 会って脅されたりしないのか? 今度は考えるほどにメールを送ってしまったことを後悔しだした。

「えっ?! メールだ、、、」

 受信フォルダに、堀口エリからの返信メールが届いていた。

「明日、、、 カフェ・ガレット、、、 あぁ、あそこか、、、」

 メールには、明日の夕方、マンションから歩いて5分くらいのところにある喫茶店で会えるかと書いてあった。

「ええ~っ、、、 明日か、、、」

 メールの末尾に、『私は写真のあなたしか知らないし、あなたはあなたの男性の姿を私に知られたくないと思っていらっしゃると思うので、写真のような素敵な女性の恰好で来てくださいね』と書いてあった。

――女装して会うのかぁ、、、、

 しかし、考えてみるとエリの言う通りで、竜之介が恐れているのは、速水竜之介とブログ「ヴィーナス&マース」の女装子とが同一人物であることを知られることなのだ。

 勝手にメモリの中を覗かれたのは怒るべきことなのだが、素直にお店に届け出られていたらスタッフたちの餌食になっていたに違いない。

 堀口エリはボクに気遣いを見せてくれているのだから、この人に拾われて良かったのかもしれないと思えてきた。

 返信が届くまでは不安で仕方がなかったのだが、そう思い至ると待ち合わせを承知したと竜之介はメールを返した。

 ブログを閉鎖しようかと思うほどに萎えていた竜之介の気持が、一気に蘇る。

――明日は、どの服着ていこうかなあ

 クローゼットのカラフルな洋服を思い浮かべると、明日へと気持が急ぐ。 

「ふふっ。 堀口エリも見てくれているんだから、更新しちゃおっと」

 落ち込んでいた分だけ反動で気分が弾け、竜之介は急いでネットカフェの記事を書きあげ、ブログにアップしてベッドに潜り込んだ。


     

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